細部にまでこだわってデザインされたラジオ。T1000ラジオ1963年 ブラウン社(Photo:Braun GmbH)
現在、府中市美術館で開催中の「純粋なる形象」展の為に来日した、ディーター・ラムス。Vol.1に引き続き、ラムス氏本人と、彼がブラウン社の製品と並行して手がけてきた家具シリーズを販売するヴィツゥ社(Vitsoe)の代表、マーク・アダムス氏に、良いデザインやあるべき未来のデザインなどについてお話を伺った。
—あなたは、ヴィツゥ社のシェルフもブラウン社の製品も、外見だけでなく使いやすさなども含めたあらゆる面を考慮してデザインされていましたね。しかし、それは「デザイン」の範疇を超えた大変な作業だったと思うのですが。
ラムス 私はデザイナーというより、常に建築家に近い存在でした。良い建築家は見かけだけでなく、その構成をはじめ、様々な面を考慮します。元々は、「デザイン」という単語は“あらゆるものを考慮してデザインする”という意味だったんですよ。しかし、今では「デザイン」という言葉の意味自体が変わってしまいました。
—ブラウン社では長い間、多くの人をとりまとめていらっしゃいましたが、最高の製品を作るためには言い争いも多かったのではないでしょうか?
ラムス もちろんです。良いものを作るためには、討論は不可欠なものですよ。ですが、同時に相手の意見を聞く耳も持たなければならない。それが、良い結果を導くのです。
アダムス どの分野においても良いものを作る会社とは、様々な意見を持つ有能な人材が集まって、良い討論を交わす会社だと思っています。
—日本はそのような点でまだ学ぶところが多いかもしれませんね。
ラムス 私の信条は「LESS BUT BETTER(より少なく、より良いものを)」ですが、より良いものを生み出すためには、沢山の人のアイディアを借りなければなりません。技術、材料、生産方法、資金など、様々なことを考慮しなければならないのですから。
キッチリとデザインされたブラウン社のこのラジオは、1960年代の製品。Radio RT20 © Braun, Courtesy Vitsœ
—では、良いデザインを世の中に増やすためには何が必要なのでしょう?
ラムス 良いデザインの殆どはとても高価で、大衆の元へと届いていません。つまり、今も昔も必要とされるのは、利益だけでなく、私達には何が必要かを考える企業家達です。それは、今日必要なものだけでなく、明日必要になるであろうものも含めて。そして、デザインのクオリティや生産方法から、最終的にそれをどのように会社のアイデンティティへと導くのかも考えなければならないのです。今の世界は人で溢れていて、どの業界も競争が激しくなる一方です。だからこそ理解のある企業家達、そして政治家達が協力し合わなければならない。私は確信しています。あと2、3年のうちに必ず大量生産をやめならなければならない時がやって来ると。環境問題が深刻化する今、本当に必要なものが何かを考え、不必要なものを生活から省いていくことが大切なのです。
—それでは、今、良いデザインをしているのは具体的にどなただと思われますか?
ラムス アップル社のジョナサン・アイブ、日本なら深沢直人さんでしょうか。確実に良いデザインをしている人はいるのです。ただその人数は少ないですがね。
—今、名前のあがったお二人の作品は、あなたの過去の仕事と比較されることが多いように感じますが、ご自分の手がけてきたものに多大な影響を受けている製品に関してはどう思われますか?
ラムス 私はあまり把握していませんが、そういうものは沢山あるようです。よくアップル社製品が私のデザインのコピーだと言われますが、そんなことはありません。あれは私の過去の仕事に敬意を表してくれていると思っていますよ。ブラウンの計算機のように、技術面からのデザイン的発明がその後スタンダードになるという場合もあります。私が初めてブラウン社でデザインしたレコードプレイヤーは、カバーが透明だったため「白雪姫の棺」というあだ名をつけられました。あの透明なカバーは、1956年のあの当時、レコードプレイヤーとしては初めての試みだったのです。ところが、透明なカバーは現在でもスタンダードなものとなっています。
「白雪姫の棺」というあだ名をつけられたレコードプレイヤー。SK 4/SK 5ラジオ・レコードプレイヤー1956/58年 ブラウン社(Photo:Braun GmbH)
アダムス 一方で、ディーターのキャリアは長きに渡るデザインプロセスの一部であるということです。今のディーターが多くの人に影響を与えているように、彼自身も若い時はあらゆるものに影響を受けたはずです。そうやってデザイン界でも様々なことが受け継がれていくんです。自然界と同じなんですよ。
—では最後に、日本の若いデザイナーの皆さんに何かメッセージをお願いします。
ラムス デザイナーは常に楽天主義者でなければなりません。そうでなければ、デザインなんてやっていられませんからね。たとえ不況の中にあってもデザインのフィールドはポジティブでなければならないのです。なぜなら、良いデザインにとっては、これが大きなチャンスなのですから。
アダムス 環境問題が深刻化している時に、100年に一度と言われる大不況がやって来ましたが、この2つの大きな問題が、「大量生産」「大量消費」という考えも変えてくれるのではないかと期待しています。
ラムス そして、その方法を教えてくれる政治家が今後世の中に一人でも多く増えることを祈っています。
左がヴィツゥ社のマーク・アダムス氏、右がディーター・ラムス氏。
(Text:Chiemi Isozaki)
ディーター・ラムス展
「純粋なる形象 ディーター・ラムスの時代 ー機能主義デザイン再考」
会期:
2009年5月23 (土) 〜7月20日 (月・祝) 10:00〜17:00
(休館日は最終日を除く毎週月曜日)
会場:
府中市美術館
住所:
東京都府中市浅間町1丁目3番地
入場料:
一般800円、高校生・大学生400円、小学生・中学生200円
ウェブサイト:
http://www.city.fuchu.tokyo.jp














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